【山口 時雄】第1回 ICT教育の現状と課題

実証校・先進校と現実のギャップ

文部科学省は2011年、「教育の情報化ビジョン」を発表、2020年までに1人1台の情報端末の実現を目標に掲げた。あわせて、1人1台の情報端末、電子黒板、無線LAN等が整備された環境下で、ICTを活用して子供たちが主体的に学習する「新しい学び」を創造するための実証研究を実施。ICT教育業界、教育界は「1人1台」をキーワードに、ICT活用教育の実現に向かって走り始めた。

2010年に発売されたApp leのiPadが世代を更新しながら急速に普及して市場を独占、iPad miniも登場して、「1 人1 台情報端末」はいつしか「1人1台ダブレット」に言い換えられ、2012年頃には一部の先進校でiPadの導入が進んだ。

2013年になると、公開授業や研究発表会が各地で開催され、多くの参加者を集めた。そこでは、先進校や実証校、モデル校などの教師や個人的に先進的な取り組みを行ってきた教師がタブレットや電子黒板を自在に使った模擬授業を披露、参加者からは「おお〜」「凄い」など感嘆の声が漏れていた。しかし、こうしたイベントや公開授業の参加者の多くはICT教育関連産業の企業関係者であり、教育現場でI C T 教育を実践する教師や学校長、教育委員会の関係者などが多数を占めているわけではなかった。もちろん教育関係者限定のイベントやセミナーも行われてはいたが。

文科省の「教育ICT活用実践発表会」(2013年ICT教育ニュース)

また、公開授業の素晴らしさを実感した教師や関係者が持ち帰って自分の地域や学校で実践しようと考えても、タブレットや電子黒板はもちろん教室にLAN設備がなく、インターネットに繋がることも出来ないという現実が待ち受けていた。もちろん、ICT教育実践の中身までは到底たどり着けないのが現状だ。こうした理想と現実のギャップについて文部科学省は、今年7月に公表した「『2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会』の最終まとめ」でも、モデル事業などの実施で、「ICTを活用した教育実践の事例の構築等を行ってきているが、学習指導要領と関連付けてどのような資質・能力の育成に効果的か、教員の指導力の向上にどのように結びついているかなどの点について、十分な検証がなされておらず、これらの実践事例がICTを活用した授業モデルの構築につながっていないという課題がある」と評価。

「加えて、先導的な教育環境というモデルだけでは、多くの学校にとってハードルが高いものとなっており、一般的な学校で広く取組が可能な中間的なモデルの提示が求められている」と、実証校の取り組みだけではハードルが高すぎて普及しないと認めた。I C T 活用先進校の多くは私学であるが、そこで開催される公開授業を視察して学ぶべきことは、ICT活用授業のやり方ではなく、「設備」「ツール」「教員研修」など、その学校と自分の学校のギャップを冷静に分析してみることではないだろうか。

1 2

山口時雄(やまぐち ときお)

ICT教育ニュース 編集長

日本大学法学部新聞学科在学中から映像業界で活動。フリーの映像作家を経て、1986年(株)フレックス入社。NTT関連の広報活動、通信イベント等多数参画。1990年~93年テレビ朝日「ニュースステーション」ディレクター。1994年~フレックス報道担当取締役。2003年、メディアコンサルタントとして独立。2013年~現職。

yamaguchi