【吉田 博彦】高校基礎学力テスト 「学びの基礎診断」の全容と課題

「学びの基礎診断」とは?

全国学力調査が始まって約10年、その目的は全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図ることにありました。しかし、現在のところは、新聞報道などの単なる「都道府県別の平均値の比較」という形が定着しつつあり、この学力調査の結果を学校間の教育成果の比較に使ったり、教員の指導力の判定に使ったりするという動きが出ている状況です。本来、そうしたことにこの学力調査を活用することが目的ではなかったはずなのですが、我が国における「テスト」というものの歴史が持つマイナスの側面であると思います。

ただし、全国学力調査が始まって、教育現場に「教育目標に即した教育評価が必要だ」という意識が生まれ、しっかりとした教育評価というものについて教育関係者が関心を持ち始めたことはプラスの効果といえると思います。たとえば、この学力調査の「B問題」と言われる「答えが一つではないテスト問題」に関心が集まり、そうした問題への対応が学校現場の授業などに変化をもたらしたことは、今回の学力調査のプラス面であると思います。こうしたことからわかるように、良し悪しにかかわらず、学力テストの内容は教育現場に大きな影響をもたらします。

文部科学省はそうした「成功体験」を基に、2019年度から高校で「高校基礎学力テスト」の実施を決め、名称を「学びの基礎診断」としました。ただ、これはとても大きな問題を含んでいます。

未決着な課題

一般には知られていないことですが、我が国の教育基本法には義務教育と大学教育は規定されているのですが、「高等学校」については記載がなく、「高校とは何か」については曖昧なままなので、「高校とは何か」という問いに客観的で明確な回答ができる教育関係者はほとんどいません。終戦直後に作られた教育制度の中で「新制高校」が設置され、その高校への進学率が急速に伸び、高校は大学予科としての性質から義務教育化し、その中で高校のあり方は多様になってきました。つまり、ここまで積み残してきた「高校とは何か」という議論に「けり」をつけないで、「高校基礎学力テストをどのように設計するのか」という「問い」に対する「解」は出てこないはずです。

英国のパブリックスクールやグラマースクール、仏国のリセ、独国のギムナジウムなど、修業年限を含めて、日本の高校にあたる後期中等教育の教育形態・教育内容は、各国ごとに多様な発展を見せてきました。しかし、日本では総合学科の創設などが進められましたが、大学進学率の上昇の中で普通科が圧倒的に優位なままなのです。

こうした高校のあり方議論が国レベルで進まない原因は、高校運営の「お金」の問題にあります。日本では義務教育に関して国の財政的役割が明確に定められ、また、大学に関する国の財政的役割も明確であるのに対して、高校に関しては都道府県の所管であり、国としての制度的関与が薄いこともあって、国として高校をどうするのかという根本的な議論はされないままなのです。1998年の中等教育学校制度の創設時や2010年の高校無償化の時など、「高校とは何か」という議論に決着をつける良いチャンスはあったのですが、大きな制度改革時でも完全な整理はなされなかったのです。そして現在、高校進学率約98%、大学・短大のみの進学率約56%、専門学校まで含めれば約80%という「ユニバーサル化」が一層進展したのですが、まだこの問題は取り残されているのです。

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吉田 博彦(よしだ ひろひこ)

教育支援協会 代表理事

1952年 大阪府枚方市生まれ。中高と神戸で育ち、1976年早稲田大学法学部卒業後、海外子女教育、インターネット教育事業などを行う民間教育会社の経営にあたる。

1997年、「教育支援協会」の設立に参画し、99年、教育分野で最初のNPOとして経済企画庁(当時)の認証を受け、全国組織のNPOの代表理事に就任。また、2003年に特定非営利活動法人小学校英語指導者認定協議会専務理事、2015年に特定非営利活動法人全国検定振興機構理事長に就任し、英語教育の改革や大学入試改革に取り組んでいる。

yoshida

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