【大村伸介】「傾聴」を軸にした面談を
3月に入り、巣立ちの時期がやってきました。同時に、新しい出会いも。とりわけ学習塾の先生方は、在塾生の進学・進級に加え、新年度生徒獲得に向け、面談ラッシュかと存じます。また、学校におかれましても、同様かと存じます。
かくいう我が家も、中学校、小学校、そして幼稚園とフルラインナップでして、妻は個人懇談三昧です。そんな妻が懇談後に決まって言うことがあります。
「あの先生は、いいわぁ。しっかりと話を聞いてくれるし、意見も言ってくれる。さすがやわ」
「あの先生は、もう一つかなぁ。話をあんまり聞いてくれないし、ちゃんと見てくれていない気がする。一方的に話されて、不安になるわ」
この違いは一体何でしょう…。人間は聴いてほしい生き物です。抱えているものを分かち合いたいのです。
「話す」ことは、心に抱えているものを「放す」ことであり、「離す」ことによって客観視することです。それを支援するのが「傾聴」です。傾聴力が高まれば教育の可能性も、人間関係の可能性も大きく広がります。
傾聴の三要素
クライアントの「放す」「離す」を実現するのが「傾聴の三要素」です。
何かをしながら聴かず、聴くことに専念するということです。さらに、そういう物理的なことだけでなく、意識の矢印をクライアントの内面にしっかりと向けるということです。
人間は考える動物ですから聴きながらもつい考えてしまいますが、そんな自分に気づき、興味の矢印をクライアントに向け直します。そうするとクライアントは自分に集中することができ、振り返りや自己観察ができるのです。コーチ自身も、クライアントの声なき声まで聴きとれるようになります。
人の話を聴きながらも、人は常に頭の中で「できる/できない」「自分に関係ある/ない」「好ましい/好ましくない」「正しい/間違っている」などの判断をしています。その判断を持ったままだと傾聴がストップします。さらには自分の判断をクライアントに受け取らせたくなったりします。
判断は自動的に起こってくるものです。ですから無理やり抑えようとせず、出てきたら一旦脇に置く、また出てきたらまた置く、それだけです。
クライアントの沈黙をしっかり待てるかどうかが教育コーチングの深まりを左右すると言っても過言ではありません。なぜなら沈黙は、クライアントが思考したり、感情と向き合ったり、答えを探したりしている時間だからです。
沈黙は価値あるものです。大切に扱いましょう。沈黙の後には、勇気のある一言や、重みのある一言が出てきます。ワクワク感を持ってしっかり待ちましょう。
じゅうぶん待って、それ以上待つことが効果的でないと感じた時には、「今、何が起こってる?」「今、何がある?」と質問してみます。