【トンクス・バジル】AIによる英語翻訳の現状と未来

─ 外国語学習の要らない時代が始まる? ─

 皆さんは「ノッカーアップ」(knocker-up)という職業を聞いたことがありますか。おそらく聞いたことがないでしょう。なぜなら、ノッカーアップという職業は約70年前になくなりました。ノッカーアップは時計が高価で、まだ正確ではない産業革命時代に生まれた職業でした。ノッカーアップの仕事は朝、町中を歩いて、寝ているお客さんを起こすことでした。お客さんの家のドアを叩いたり、長い棒で2階の窓ガラスを叩いたりしていました。お客さんが確実に起きていることを確かめるまで次の家に移動しないことが、ノッカーアップの1番の「売り」だったようです。1950年代、人々は時間の管理を時計に任せることによって、ノッカーアップは完全に世の中からいなくなりました。

 時計の普及のように、機械の登場によって世の中が革命的に変わることが歴史上何度もあったと思います。そして今、AIの誕生によって、今まで誰も経験したことがない、考えられない変化が起こり始めています。間違いなくAIの影響は言語学習にも来るでしょう。AIの翻訳・通訳機の普及によって人間の通訳者と翻訳者が必要なくなれば、外国語の学習も必要ないという時代も来る可能性があります。しかし、本当にAIは人間の通訳者と翻訳者の代わりになるでしょうか。世の中にそう思っている方が増えているようですが、私はすぐにそうならないと考えています。その理由は多数ありますが、ここで2つを取り上げてみたいと思います。

人間のバーバルコミュニケーションはAIにとって理解しづらい

 まずは、人間のバーバルコミュニケーションの性質の問題があります。次の文章を見てください。

The lecturing bothered me slightly because the teacher made it seem to my mum that we hadn’t been doing any revision at all, when I knew that I had; we’d been doing, like, six hours a week, which is more than the teacher told me to do…and then Mum sided with the teacher, and it was, like, “You’ve seen the revision I’ve been doing, what’s going on?”(1)

 これは、実際に録音された高校生の会話です。文法のルール上から見ると、たくさん反している部分がありますが、ネイティブならすぐに意味が理解できます。ごく普通の会話です!しかし、これをある有名な翻訳機を通すと次のような日本語になります。

 私が知っていたことを私が知った時、教師はそれが私の母親のように見せてくれたので、講義は私を少し気にしました。私たちは教師が私に言われた以上の週6時間のようにやっていました…そして、ママは先生と一緒に横たわっていました。何が起こっているの? ”

 最後の「何が起こっているの?」それはこちらのセリフでしょう(笑)。ところで、実際の意味は以下のようになります。

 先生に叱られたことは少し気になりました。なぜなら先生は母に全く宿題をやっていないように思わせたからです。しかし、私はやっているでしょう。先生に言われた以上、週6時間ぐらいやっているんだよ。そして母は先生の味方になって、その時 「どうして?ママは宿題をやっていることをわかっているでしょう。」と思った。

 やはり、実世界での「複雑」、「間違いだらけ」、「ごちゃごちゃしている」人間的なコミュニケーションは、まだまだAIには理解できないですね。ルール通りの、パターンのある言葉は大丈夫でしょうが、ルールに合っていない、前例のない言葉はAIにとっては難しく、この問題を解決するのに相当時間がかかると思います。

1 2

トンクス・バジル

1966年カリブ海の島国トリニダード・トバゴで生まれ、1969年にカナダへ移住。トロント大学を卒業後、ブリティッシュコロンビア大学院でアジア学を専攻。

1992年に来日以降、英語学校の統括責任者、教材開発者、教師養成トレーナーなど幅広く教育に携わってきた。

現在は教育出版会社である株式会社エドベックの社長。

bazil

▼『トンクス・バジル』の過去記事を読む

【2018/3月】一生涯学び続ける時代に向けた「シリアスゲーム」の提案

【2018/2月】小学校英語はモチベーションが一番大切

 

   ≫さらに読む