【林 隆樹】グローバル人材の必要性と実態

― 保護者を満足させ受験を見据えた海外留学のすすめと取り組み方 ―

それぞれの国の文化への尊重と敬意

前回は、自国に対する愛と誇りがあるからこそ、それぞれに自国を愛し誇りを持ったいろいろな国の人たちと認め合い、尊敬しあえる、自文化を基軸に、それぞれの国々の文化、個性の違いこそが、交流してみてとても魅力的に感じる、そしてそれが、あるべきグローバル化、画一化ということではなく、多様性、ダイバーシティということである、と語りました。今回はこの点を例をあげてもう少し掘り下げてみたいと思います。

文化と文明(個と普遍)と言語

 本題に入る前に、意外に混同されている、「文化」と「文明」についてちょっとお話ししましょう。「文化」は「カルチャー」の翻訳語で、「文明」は「シビリゼーション」の翻訳です。ここで詳細なコメントは控えますが、簡単に言うと文化とは「個的、地域的なもの」であり、文明は「普遍的」なものです。

 定義しづらい部分もありますが、石・鉄器文明等はこの用例で、キリスト教・イスラム教文明等の用例はかなり広義で、影響範囲は極めて広いために「文明」とも言えるのでしょうが、本来「文化」というべきものでしょう。

 「ある文化」はなかなか「他の文化」から理解されにくいものです。

 そして、おそらく「文化」の最たるものが「言語」でしょう。下記は随分前に私がどこかに書いたものですがそれに少し手を入れたものです。学術論文ではなく言語と文化の周辺についてのエッセイです。

巷に雨の降る如く 私の心に涙降る

Il pleure dans mon coeur
Comme il pleut sur la ville
     - Paul Verlaine

 “It rains.”これはどうしたって「雨が降る。」と訳す以外にないのかもしれないが妙にナイーブな中学生の私はその “It”が理解できなかった。英語の躓きの1歩目だった。”rain” が動詞であるのは百歩譲るとしても、せめて“Rain rains.” くらいにならないものか。”Rain drops fall.”はあり得ても、”Rain falls.”なら納得だがそんな英語はなかった。

 (そういえばBob Dylanには<A Hard Rain’s A-Gonna Fall>という歌があって、強調かとは思うがまだ突っ込んで吟味していない…)

 大学生になり、ドイツ語やフランス語を学習し、しかしやはりドイツ語では“Es regnet.”, フランス語では“Il pleut.”と結局、英語と同じ構文で、まあこだわってもしょうがないかとあきらめたものだった。

 しかし、ふとこんなことに気付いた。「コップがある。」ということを英語では ”There is a cup.”と表現するがドイツ語、フランス語ではそれぞれ、”Es gibt eine Tasse.”“Il y a une tasse.”と表す。始めの、“Es” と“Il” は “it”に相当するもので次の “gibt は“ gebenの3人称単数形(英語のgivesに相当) で「与える」を意味して、“y” は場所を表す中性代名詞「そこ」ほどの意で、“a”は“avoir”の3人称単数形(英語の hasに相当) で「持つ」を意味する。

 従って、それぞれの単語に直訳式に日本語を当てはめてみると、ドイツ語では「それがコップを与えている。」、フランス語では「それがそこにコップを持っている。」という形式で、「コップがある。」ということを表現していることになる。勿論、ドイツ人、フランス人は日常そんなことをいちいち意識してコップがあるということを認識しているわけではないのだが。

 ただ、そうするとわが躓きの石の “It rains.” は「それが雨を降らしている。」と考えられないだろうか。

 欧米人にとって意思を持たない ”rain” が意思あるものの如く降るのは奇妙なことなのだろうし、存在を表現するのにその「物自体」が主語になるのは、まあ強調的に “A cup is there.”という言い方ができないではないにしても、彼らにとってはかなり「不自然」なことになるのかもしれない。フランス語にはvoici、voilàというポピュラーな表現があるが、voir(見る)を語源として、存在を表すというより、”Voilà une tasse!”「ほら(ご覧なさい)、コップがありますよ。(コップですよ。)」という程度のニュアンスかと思うが、やはり、物が前面にはでない。

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林 隆樹(はやし りゅうき)

(一社)日本青少年育成協会 理事・国際交流委員会委員長

1956年東京都生まれ。早稲田大学大学院在学中にフランスに1年間留学、帰国後翻訳会社に勤務。

1992年、サンフランシスコに本社を持ち、世界各国に展開する英語学校の日本支社長に就任。

以降、留学業界で活躍。2001年社団法人日本青少年育成協会国際交流委員会、2004年より同協会理事に就任、現在にいたる。

2000年より一般社団法人JAOS海外留学協議会事務局長、2013年より専務理事。

2011年、一般社団法人J-CROSS留学サービス審査機構の立ち上げにかかわり同機構理事。

2014年より、特定非営利活動法人文際交流協会理事。2017年より学校法人イーストウェスト日本語学校理事。著書に「成功する留学、交換留学編」(共著)などがある。

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【2018/6月】グローバル人材の必要性と実態

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