【出口 汪】子どもたちの未来のために 本気で教育業界を変える

やがて明治になり、近代化の波が押し寄せると、オランダ語が最終的には英語に変わったのだ。当時大学に行く者はほんの数パーセントの知的エリートであり、彼等は欧米から日本に必要な答えを探しだし、それらを翻訳すれば良かったのだ。大学では翻訳の対象によって、医学、自然科学、法律、経済、文学などの学部に分けられた。

つまり、大学は翻訳機関に他ならず、そのために入学試験では文系・理系を問わず、翻訳能力として、英文解釈と文法、そして、日常で使う単語ではなく、学術書に必要な単語力を要求することになる。だから、どれだけ英語の勉強をしようが、決して英語が喋れるようになるわけではないのは自明のことである。

そして、何より問題なのは、彼等知的エリートが探し出した欧米の答えを、すべての子どもたちが疑うことなく模倣・吸収したことである。そのための訓練として、小学校から記憶・計算を押しつけられ、それが優秀な子どもは翻訳力を鍛えることによって難関大学に入っていったのだ。

今でもどれだけ知識を詰め込めるか、いかに早く正確に計算できるかなど、結局のところ、江戸時代の蘭学と何ら変わらない、古い教育がはびこっている。たとえば算数の解法パターンなど、彼等が社会に出た頃に、いったいどんな役に立つというのだろう。目先の点数を取ることだけに夢中になり、学習の本質を見失ってしまっている。

教育業界に風穴を

今や第四次産業革命の時代が到来するという。それはAIやロボットによる社会構造の根本的変化を意味する。記憶や計算は人間の仕事ではなくなっているのに、なぜ未だに子どもたちにそれらを押しつけるのか。

AIやロボットはあらゆるものを自立化する。彼等だけですべてを完結させてしまうのだ。プログラミングですら、これからは人間ではなく、AIがすべて行ってしまうのである。その結果、記憶や計算、肉体労働から解放され、真に自由で、創造的な人生を送る僅かな人たちと、AIやロボットに仕事を奪われる圧倒的多数の無用な人たちとに峻別されることになる。

今必要とされるのは、如何に自由で創造的な人間を育て上げるかであって、そのためには旧態依然の教育を早急に変革する必要がある。これからの時代を生きる子どもたちの未来のために。そのために私は残りの人生をかけて、教育業界に風穴を開けようとしている。

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出口 汪(でぐち ひろし)

関西大学大学院博士課程単位修得。代々木ゼミナール、東進ハイスクールの講師を歴任し、「国語の文章を論理的に読解する手法」を授業に取り入れ、一躍カリスマ講師としての人気を博する。その後、1993年には「総合予備校S.P.S」を、2000年には教材開発・出版を目的とした「水王舎」を設立する。2003年に発行した「論理エンジン」は、国語を感覚的に解くのではなく、筋道を追って論理的に解くことの重要性を説き、全国公立私学250校以上が採用するなど、大ヒットを記録する。広島女学院大学客員教授、基礎力財団評議員。著書『はじめての論理国語(水王舎)』『出口先生の頭がよくなる漢字(水王舎)』『知っているようで知らない夏目漱石(講談社)』など著書多数。

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