【出口 汪】未来型教育で新しい学びを。

1月5日、スタンフォード大学教授で、スタンフォードオンラインハイスクール校長である星友啓先生が来日され、品川で「未来の教育」というテーマで講演された。第二部では私も登壇して、星先生とパネルディスカッションを行った。スタンフォードオンラインハイスクールは世界中の優秀な高校生が集まっている学校であり、難関大学の合格実績も全米トップクラスである。会場は教育関係者で満杯であり、異様な熱気に包まれていた。

現在、アメリカの高校は二極化していて、上位校はAI時代にふさわしい新しい教育をすでに実践しているとのことである。そして、難関大学はそうした教育を受けた子どもたちを積極的に入学させているのである。一方、下位校ではいまだに旧態依然の詰め込み教育から抜け出せず、当然進学実績も年々低下しているらしい。

星先生にパネルディスカッションで確認したところ、教育改革は徐々に進行していくのではなく、ガラガラポンで、近い将来一気にひっくり返ると断言された。その時、旧態依然の教育にしがみついていた学校・塾は生き残ることができないという。まさに私の予想と一致していたのだ。

すでにアメリカだけでなく、ヨーロッパでも上位校では未来型の教育に切り替えが行われ、実績を出しているのに、日本だけは上位校であっても、アメリカの下位校と同じで、いまだに詰め込み教育から脱却できていないことには驚くばかりである。確かに、多くの塾はITの導入、英語の4技能、プログラミング・ロボット教育と、パッケージを新しくすることに懸命だが、肝心の教育の中身は記憶・計算を中心とした旧態依然の詰め込み教育と何ら変わりがない。根本が古い教育である限り、いくら目新しいものを導入したところで、結局は新しい時代に対応できず、生き残ることなど到底不可能なのである。

学力と教育環境

では、スタンフォードオンラインハイスクールでは、どのような教育が成果を上げているのか。星友啓先生はそれを一言で、「教育から学育への転換だ」と指摘される。講師が生徒に教えるのではなく、生徒自らが学び、育っていく環境を作っていくのである。講師が教えると、子どもたちは自分で考えることができず、ただ答えを待つことになる。そして、与えられた答えを疑うことなく、ただ忠実に模倣しようとする。そうした創造性の欠如した訓練は非人間的なものであり、才能のある子どもほどより多く苦痛を感じるものである。親や講師は「頑張れ」「努力せよ」とそれらを強制し、人間的な悲鳴を上げた子どもに「努力不足」とすべての責任を押しつけ、「頭が悪い子」「勉強ができない子」とレッテルを貼り付ける。脳を育てる12歳までにそうした教育を押しつけると、子どもが成長した時に仕事をAIに奪われてしまうことになる。何とかそうした子どもを救うことができないものか。

星友啓先生がアメリカの難関大学に合格した子どもたちのデータを調べたところ、二つの共通点が炙り出たと講演で指摘された。一つ目は生まれた場所、二つ目は親の年収である。このことの是非はともかく、子どもの学力は環境に大きく左右されているという事実は受け止めていかなければならない。親の意識が高く、経済的に恵まれている子どもほど高い学力を獲得する可能性が高い。私の言語プログラム「論理エンジン」は現在シンガポール中学日本人学校で全面的に採用されているのだが、彼らが日本の模擬試験を受けたら、平均偏差値が70を超える。灘や開成のように、最初から優秀な子どもたちを選抜したわけではないのに、彼らに匹敵する学力を持っているのである。そして、シンガポール国立大学は世界ランキングがアジアでは一位であり、多くの子どもたちがこの大学に進学することになる。シンガポール中学日本人学校の校長に聞いたところ、やはり富裕層の保護者が圧倒的に多く、教育環境に恵まれているという。ただし日本の場合は、裕福な保護者であっても、古い教育を受けてそれで社会的に成功した人たちが多いので、彼らの教育に関する固定観念、古い教育観を突き崩さなければならない。

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出口 汪(でぐち ひろし)

関西大学大学院博士課程単位修得。代々木ゼミナール、東進ハイスクールの講師を歴任し、「国語の文章を論理的に読解する手法」を授業に取り入れ、一躍カリスマ講師としての人気を博する。その後、1993年には「総合予備校S.P.S」を、2000年には教材開発・出版を目的とした「水王舎」を設立する。2003年に発行した「論理エンジン」は、国語を感覚的に解くのではなく、筋道を追って論理的に解くことの重要性を説き、全国公立私学250校以上が採用するなど、大ヒットを記録する。広島女学院大学客員教授、基礎力財団評議員。著書『はじめての論理国語(水王舎)』『出口先生の頭がよくなる漢字(水王舎)』『知っているようで知らない夏目漱石(講談社)』など著書多数。

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