【出口 汪】一を聞いて十を知る

詰め込み教育を脱却し、論理によって創造的な脳を

昔から言われ続けていた勉強の極意であり、頭の使い方の極意でもある。子どもの頃からこうした頭の使い方を身につけたなら、生涯にわたっての生きるための武器となる。そのためには論理を習得する必要があり、詰め込み教育はそうした頭の使い方を阻害する。

私は「出口式子ども未来教室」フランチャイズを全国展開することにより、子どもの未来を変え、AI時代に適応できる人間に育てたいと思っている。そのためには、まず子どもの頭の使い方を変える必要がある。論理を習得することで、子どもの頭の使い方が変わり、創造的な脳が形成される。

前号でも書いたが、重要なことなので改めて、確認しておこう。

そもそも子どもの脳は6歳で大人の脳の80パーセントくらいができ上がり、12歳で大人並の脳になると言われている。したがって、中学生や高校生になってから論理を習得し、柔軟に使いこなすよう訓練をしてもなかなか定着しにくい。一度習慣化した思考体系や行動を変えることは高校生であっても容易なことではないのである。

私が幼児教育に論理を取り入れることの重要性を説いているのは、このことが最大の理由である。真っ白な状態の脳に論理を使いこなすことを習慣化させれば、その習慣は成長しても残り続ける。いわば古い建物を取り壊し、更地にして、新しい建物を建てることは時間もかかるし、なにより先生や生徒にとって負担が大きい。それに対して、まだ建物が立っていない土地に建物を建てることは、いくらか負担が少ない。

論理の役割

論理には、「整理する」と「伝える」という二つの重要な役割がある。

例えば、机の上に膨大な書類が乱雑に積み上げてあるとしよう。そこから必要な書類を一枚取り出すのはかなり厄介だし、仮に見つけ出したとしても無駄な時間を費やしてしまうことになる。

一方、机の上には必要な書類しかなく、しかも、きちんと整理され、ファイルごとに分類されていたとしたなら、あなたは一枚の必要な書類を難なく取り出すことができるはずである。見つけやすいだけでなく、必要なものを必要な時に素早く取り出すことができる。

もうお分かりだと思うが、これは学習する際の頭の中の状態を例えたもので、前者が何でも詰め込んでしまった状態、後者が必要なものだけを論理的に整理して頭の中に入れた状態である。

昔から「一を聞いて十を知る」のが頭の良い証拠だとされていたのであるが、まさにこれは真実で、そのためには頭の中をいつも明晰な状態に保っておかなければならない。明晰であるとは、情報を論理的に整理できている状態に他ならない。

例えば、言葉の数だけ意味があるのだから、ある程度の分量の文章を漠然と読んだら、頭の中は多くの意味に溢れ、ごちゃごちゃしてしまう。だから、その中から必要なものを取り出すことができないし、考えることも記憶することも困難となる。しかも、そうやって読み取った多くの意味は時間とともに消えていく。

それに対して、論理的に文章を読むと、どんな長い文章でも要点となる部分と、それらを説明するかざりの部分とに分けることができる。大切な数行の要点を読み取ると、それらの論理的な関係が頭の中で整理できる。だから、それについて考えることができるし、人に説明したり、まとめたり、設問に対して論理的に答えることができるのである。

これからは様々な入試で記述式問題が重要視されるようになるのだが、頭の中で読んだ内容が論理的に整理されていれば、設問に答えることは容易なことなのである。読んだ内容が頭の中で整理されていないので、選択肢があれば何となく答えることができても、記述式になると何をどう答えていいのか分からない。

今後、入試が大きく変わることに対して多くの学校や学習塾・予備校はその対応に躍起になっている。この大きな変化はただ単に入試の方式が変わるだけではない。論理的に情報を整理することが求められるようになっているのだ。幼いころから論理的に読み、情報を整理する能力を養えば、このような変化に対しても柔軟に対応できる。幼児教育として論理的な脳を育てることは、これからの社会で生き抜く能力を育てることにも直結しているのである。

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出口 汪(でぐち ひろし)

関西大学大学院博士課程単位修得。代々木ゼミナール、東進ハイスクールの講師を歴任し、「国語の文章を論理的に読解する手法」を授業に取り入れ、一躍カリスマ講師としての人気を博する。その後、1993年には「総合予備校S.P.S」を、2000年には教材開発・出版を目的とした「水王舎」を設立する。2003年に発行した「論理エンジン」は、国語を感覚的に解くのではなく、筋道を追って論理的に解くことの重要性を説き、全国公立私学250校以上が採用するなど、大ヒットを記録する。広島女学院大学客員教授、基礎力財団評議員。著書『はじめての論理国語(水王舎)』『出口先生の頭がよくなる漢字(水王舎)』『知っているようで知らない夏目漱石(講談社)』など著書多数。

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