【出口 汪】「察してくれない」時代に必要なコミュニケーション能力とは

「察する文化で育った子どもたち」

なぜ、子どもたちは論理力を獲得できないのでしょうか。

日本人は他者に対してきちんと説明するのが苦手です。アメリカもヨーロッパも多民族国家です。隣に住んでいる人や職場で隣り合う人が違う人種であることは当たり前の世界です。人種が違えば背負っている文化も宗教も習慣もことごとく異なります。自分の常識が他の人にも通用するだろうとは考えていません。日本のような「阿吽の呼吸」などはありえないのです。日本人は「常識」を疑いませんが、欧米ではそれぞれの持つ常識が違うのは当たり前という世界なのです。

欧米では、お互いに理解できない人たちが共存しようとするので、常識ではなく「契約」が重んじられる社会になっています。そのために、子どもの頃から生きていくための武器として言語(コミュニケーション能力)の訓練が重要視されるのです。

言語の構造もそれに対応しています。イエスかノーか、疑問か命令か、すぐにわかるようにそれらは必ず文の冒頭にきます。また、要点となるS、Vが前にきて、あとから飾りを付け足すというのも、相手がわかってくれないことを前提としている言語構造なのです。うまく伝わらないのは、伝え方に問題があるという考え方なので、徹底して言語技術を習得していきます。

日本人は説明しなくても相手が察してくれると思い込んでいます。日本語もそれに対応していて、肯定なのか否定なのか疑問なのかは、文の最後にならないとわかりません。そのことに私たちが不自由を感じていないのは、相手が察してくれるのを前提にしているからです。

実はこのことがコミュニケーション能力の訓練を阻害する要因になっています。子どもたちは、家庭においても親が察してくれるだろうと思って、単語だけで済ませてしまいます。子どもは親を見ていますから、父親が「風呂、飯、寝る」で済ませてしまえば、そういうものだと受け止めてしまうのです。

察してくれなかったら、自分の伝え方が悪いのだとは思いません。察してくれない親が悪い、友達が悪い、先生が悪いという思考回路になってしまいます。

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出口 汪(でぐち ひろし)

株式会社水王舎 代表取締役


関西大学大学院博士課程単位修得。代々木ゼミナール、東進ハイスクールの講師を歴任し、「国語の文章を論理的に読解する手法」を授業に取り入れ、一躍カリスマ講師としての人気を博する。その後、1993年には「総合予備校S.P.S」を、2000年には教材開発・出版を目的とした「水王舎」を設立する。

2003年に発行した「論理エンジン」は、国語を感覚的に解くのではなく、筋道を追って論理的に解くことの重要性を説き、全国公立私学250校以上が採用するなど、大ヒットを記録する。

広島女学院大学客員教授、基礎力財団評議員。著書『はじめての論理国語(水王舎)』『出口先生の頭がよくなる漢字(水王舎)』『知っているようで知らない夏目漱石(講談社)』など著書多数。

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