【川山 竜二】これからの教育を考える人のために ―Society 5.0の教育を考える

情報時代の教育?

2019年に経済産業省から「未来の教室」の第2次提言が発表された。語弊を恐れずに言えば、ICTを教育現場に取り入れて教育改革を推進するべきである、というものである。新たなテクノロジーを取り入れることで、イノベーションが生じることは言うまでもない。だが、ここで一度立ち止まって考えてみたい。ICTを取り入れれば情報時代の教育になるのだろうか。Society 5.0と言われるような社会の変化があるのであれば、社会の仕組みのひとつである教育も変化をしなければならないのではないだろうか。これからの教育を考えていくためには、教育そのもののシステムや役割を再考する必要がある。では、現状から考えてみよう。

Society 5.0は、狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会→そして新たな社会の段階と定義されている。今、まさに情報社会から新たな社会への転換期であるというわけだ。それにともなって、教育システムも変化してきた。狩猟社会の時代では、自分たちの生存可能性を高めるために親から子へ教育が行われていた。農耕社会では、ほとんどの人間が農場で働くために、計算や最低限のリテラシーを身につけるため個別指導と徒弟制がとられた。そして産業革命を経て、工業社会となった。工業社会の教育は、大半が工場で働き、一部の選抜されたものが高等教育へと進学しリーダーとして社会を牽引する仕組みであった。すなわち工業社会の教育モデルは、一斉教育モデルである。

Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。
出典)内閣府ホームページ https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

現在の情報社会の教育モデルは、いまだに工業社会の教育モデルのままである。情報革命が工業生産から知識労働中心に変革にしたにもかかわらず、である。この工業社会の教育モデルは、一斉教育のみならず、その仕組みも非常に工業化の原理になっている(一斉教育は得てすると工業ラインのような直線型モデル)。それは市場原理と分業である。仕組み1つめの市場原理は、人材の需要にしたがって大卒者を増やしたり、社会から要請されるSTEAM教科を導入したりすることが該当する。もちろん教育領域に対する市場原理を否定するものではなく、経済的な目的は必要なものである。仕組み2つめの分業は、教育の効果と専門性を高めるために科目を前提にして、それぞれ分けて教育をすることである。それぞれの専門性は高まることになるが、習ったものが何になるのか俯瞰できる教育がなされないことになる。こうした教育モデル自体が、「隠れたカリキュラム」になっており従順な学習者を創り出すことになる。このように工業社会の教育モデルに単にICTを導入したところで、情報社会や来るべきSociety 5.0に向けた教育を実現することは難しいのではないだろうか。

以上のような現状を批判することは、誰にでもできる。では何をすべきなのだろうか。現状の分析をして、ときには問題点を洗い出し、あるべきビジョンをしっかりと定めることである。そのうえで、現状からあるべき姿へどのように達成させるのかという計画を立案することである。個人的には、基本・基礎に立ち返ることの重要性を説きたい。

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川山 竜二(かわやま りゅうじ)

学校法人先端教育機構 社会情報大学院大学学監・研究科長・教授


筑波大学大学院人文社会科学研究科にて社会学を専攻。

専門学校から塾、予備校、大学、大学院まで様々な現場にて教鞭を執った実績を持つ。

現在は、「社会動向と知の関係性」から専門職大学、実務家教員養成の制度設計に関する研究と助言も多数行っている。

専門分野は、社会理論・知識社会学。