【川山 竜二】知識基盤社会における教育と学習 ―新たな教育と学習のデザイン

今の社会は予見された社会? ―知識基盤社会とは何か

現代社会はどんな社会だろう。情報社会、高齢社会、Society 5.0とさまざまに語られることがある。そのような社会を表す表現として、知識基盤社会Knowledge Based Society/知識社会Knowledge Societyという言葉がある。新しいようで50年前から予見されていたこの言葉が、まさに今の社会を表す言葉となっている。これからの社会を考える上では、「知識と社会」は切っても切れない関係である。結論めいたことをいえば、この「と」でつないでいるのは、教育あるいは学習なのではないか。そこで、まず「知識基盤社会/知識社会」とは一体何を表現するものであったのかを確認したい(本稿では、便宜上「知識基盤社会」と「知識社会」を同義語として捉える。ただし、各論者等の意向を踏まえて、記載するときは区別して記載することとする)。

「知識基盤社会」を紐解くと、初出は平成17(2005)年に公表された中央教育審議会答申『我が国の高等教育の将来像』(以下、「答申」とする)である。その「はじめに」の部分に高らかと「21世紀は『知識基盤社会』(knowledge-based society)の時代であると言われている」と謳っている。「知識基盤社会」は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化などのあらゆる社会領域の活動基盤となる社会である。したがって、「新たな知の創造・継承・活用」が社会の発展の基盤となる。この答申では、「知識基盤社会」の特質として①知識には国境がなく、グローバル化が一層進む、②知識は日進月歩であり、競争技術が絶え間なく生まれる、③知識の進展は旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力の基づく判断が一層重要となる、④性別や年齢を問わず参画することが促進される、の4つを例示している。これらの例示は、これからの知識と社会そして教育と学習を考える上で、非常に示唆的である。

ところで周知のとおり、「知識社会」を論じたのは2000年代に入ってからが初めてではない。フリッツ・マッハルプが『知識産業』を1962年に著している。マッハルプは、教育、研究開発、コミュニケーションメディア、情報機器、情報サービスの5分野を「知識産業」と定義している。ここで注目したいのは、知識を単に生産することだけでなく、「知られている状態」を作り出すことも含むという指摘をしている。

知識が産業社会に与える影響としては、ダニエル・ベルが主張そのものにしている著書『脱工業社会の到来』を1973年に著している。まさに、脱工業社会は知識社会であると述べ、2つの特徴を主張した。第一に、理論的な知識が活用され社会の中心となる。第二に、財の生産からサービスの生産に比重が変わることで知識生産に経済活動が意向するという点である。

知識と社会の関係性では、マネジメント論でお馴染みのP・F・ドラッカーが『断絶の時代』で1968年にはっきりと「知識社会」を予見している。知識が生産資源となるだけでなく、知識が社会の中心となることを主張した。そのうえで、知識社会は熾烈な競争社会になることも予見したのである。

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