編集主幹のダーツの旅

本紙編集主幹 千葉 誠一(ちば せいいち)

本紙編集主幹の千葉誠一が地域ごとの私塾事情を探るため、ダーツが刺さった地域へ赴く新連載!各地域で活躍を続ける塾や、珍しい取り組みを行っている塾などに取材を敢行。ローカルな運営法の中に、塾で生かせるヒントがある!?

私塾のトップに聞く:増田 貴司 取締役 【株式会社さなる】 愛知県

【株式会社さなる】世界に進出し、『JUKU』という言葉を英語の辞書に載せる塾になりたい

株式会社さなる 取締役 増田貴司(ますだ・たかし)氏

去る10月1日に神奈川県の名門塾「中萬学院」のビジョンポートが所有する全株式を取得してグループ化した「さなるグループ」は今業界の注目の的になっている。今回の取材では、その件も含めて現状の課題や今後の方向性について、増田貴司取締役に株式会社さなるの名古屋本社で話を聞いた。



3つの会社と3つの事業部で6ブランド構成

千葉 規模的なものについて、グループの総売上、ブランド名、教室数、生徒数、正社員数などをお教えください。展開地域についても教えてください。

増田 株式会社さなる九州が教室展開する九大進学ゼミは福岡・佐賀・大分・長崎・熊本・宮崎・鹿児島の各県にあります。また、中国地方の山口にも教室がありますので東京・神奈川・静岡・愛知を合わせて12都県の展開となります。ブランドは、佐鳴予備校、九大進学ゼミ、中萬学院、啓明舎、三島進学ゼミナール、ハイスクール@willとなります。売上は244億7209万円、教場数は633、生徒数は6万3000名、正社員は1165名となっています。

 

互いに良いところを学び合う関係を構築

一人ひとりのニーズに合わせたさなる独自の個別指導

千葉 今回、神奈川県の名門中萬学院を傘下に収められましたが、その経緯について支障のない範囲で教えてください。また、今後のM&A戦略の方向性について少し教えてください。

増田 弊社は、特にM&A会社を通して積極的にM&A戦略を行っているわけではなく、あくまでも提携したいというアクセスがあることが前提です。中萬学院とは、創業者の中萬憲明会長からの長い付き合いがあります。2代目の隆信社長とも弊社理事長の佐藤イサクが親しくさせていただいていた関係もあり、今回のお話も短期間でスムーズにまとまりました。数年前から英語教材や指導に定評のある中萬学院に依頼して社員研修もしてもらったことがあります。また、「CGパーソナル」など個別指導についても情報交換させていただいてきました。弊社は個別指導部門では、比較的後進にあたりますので大変勉強になっています。他にも色々と良いところを学び合いながら、互いにより進化できればと考えています。

千葉 中萬学院の高校部は東進衛星予備校ですが、今後高校部のコンテンツについて変更される予定はありますか?

増田 中萬学院の高校部は、弊社のオリジナルである@willに切り替えていきます。また、視覚で理解する次世代の授業システム「See-be」についても中萬学院に導入の方向で準備を進めています。

 

塾同士の教室展開に勝ち負けはない

千葉 今回、英語の民間試験導入が延期されましたが、それについてどうお考えですか?

増田 弊社としては、「英語4技能」の導入には大賛成です。ただ追加されたスピーキングについてテストするのは難しいものがあるので、今後さらに検討する必要があります。民間試験を導入することには色々な問題がありますので慎重に進めていくことになるのではないでしょうか。地域格差とか問題漏洩の心配とか…民間試験を使うのであれば、文科省や学校が民間業者をどれだけコントロールできるかが焦点になるのかなと思います。

英語を日本的なカタカナ英語で発音してしまうのは、以前から恥ずかしいという感情が先にあり、どうしても英会話が上達しない学生が多いことの要因の一つと聞いています。それについて解決できるアプリを見出した大学の先生もいて、それを進化させられればとても役に立つのではないかと個人的には思っています。

千葉 静岡県から愛知県、そして九州や山口県、さらには東京都や神奈川県に進出されて、その反応や成果はいかがでしょうか?

自社開発の次世代型授業システム「See-be」を用いた授業

増田 確かにさなるが単独で新しい市場に進出した時には、嫌がらせや卑劣な妨害がありました。長い時間が経過した今では落ち着き、余分なことに気をまわすことなく、生徒指導に邁進することができています。九州の時もそうでしたが、既存の塾をM&Aした場合、すでにあった教場が母体となるため、そういった嫌がらせが一切ありませんでした。やはり単独で進出するより、今回のようなマリアージュ方式で伸びていくことが非常に健全であると再認識しました。

千葉 各地の展開においては、やはり人材問題をクリアすることが最優先ですね?

増田 弊社はあえて「塾の先生を目指していない人材」を採用したいと思っています。極端に言えば「さなるは面白い会社だ」と思って入社したら、たまたまやる仕事が塾の先生だった。「この仕事、やってみたら意外と面白い」…こういう教師が伸びていくようです。そういう意味で、弊社は採用の半分はもともと教師志望ではなかった方が入社する塾でよいと思っています。

千葉 教育ICT時代が本格化して、AIプログラミングやロボット講座などが広まっていますが、将来的にロボット先生が活躍しそうですね?

増田 AIの学習指導への導入には大変興味があり、私もそのプロジェクトチームを束ねています。早ければこの1~2年のうちにその一部を活用したいと考えています。また、遠い将来、人が行う3学年分の授業をデータロボットに覚えこませ、それを授業という形で再現するというプランもありかなと思っています。

『AIに負けない子どもを育てる』の著者である新井紀子先生は「ロボットは計算機だから、数式に当てはまらないものは計算できない。人間の知能の営みや感情の動きを数式に当てはめるのは無理」としています。つまり質問を抱える子どもが、どのような心境で問題に取り組み、どういう気持ちでわからないと言っているかは理解できないということになります。

人の心のひだに触れるような指導は、ロボットには難しいところなので、すべての指導をAIやロボットに委ねることはできないでしょうから、子どもに寄り添う温かい心を備えた教師はいつまでも必要だと思います。

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