【沖田 寛己】オンライン化の進むコロナ禍の学習参考書のあり方

新型コロナウイルスの影響は教育業界にも大きな影響を及ぼした。対面授業が困難になったことで学校や塾はオンライン授業を開始し、多くの受験関連の有料webサービスが無料で提供された。20年以上、学習参考書の出版に携わってきた中でもここまで急速な変化を見たのは初めてのことだった。

参考書は受験生をはじめ、中学生や高校生の生徒たちの学習に大きな影響を与える。勉強手段の一つでありながら、昨今では市販の参考書を用いて指導する塾なども増え、その役割は大きい。

コロナ禍の半年間、オンラインとの融和を考え続けてきた立場から、参考書の今後のあり方を分析していく。

 

コロナ禍で変わる教育現場

コロナ禍の休校に伴い、教育業界全体が少しでも生徒たちの在宅学習を支援しようと多くの受験サービスが「無料化」に踏み切った。しかし、ほとんど全てが休校期間中のみの対応だった。

コロナ禍を経て教育現場は変わりつつある。感染対策の意識が根付き、大教室に大勢が集まる対面授業は避けられるようになり、個別指導もZoomなどでの遠隔対応が当たり前のものになりつつある。そうした背景から生徒の自宅学習の重要度は増しつつある。

ゴロゴネットでは「オンラインフリー学習参考書」として4月から学習参考書20冊をサイト上で無料公開し、高校生が誰でも自由に閲覧できるようにしている。休校期間が過ぎても需要はあると考え、現在に至るまで公開を続けている。また、「その先」を見据えた取り組みをいくつも開始した。

 

オンライン授業と著作権

教育現場の大きな変化の一つとしてオンライン授業が挙げられる。多くの学校や塾が必要にかられて非対面での授業を取り入れたが、オンライン授業には著作権という大きな壁が立ちはだかっている。

多くの学校や塾にとって、授業に使う教材を組織内で全て用意することは困難を極める。しかし、教科書や市販の学習参考書などの教材を遠隔授業や授業配信で使用するには著作権法上の制約がある。

従来、著作権法上では学校その他の教育機関では対面授業や対面授業をリアルタイムで配信する際は無許諾・無償で著作物の利用が許されていたが、録画でのオンデマンド授業やリアルタイム配信でも生徒がいない場での配信は利用許諾が必要だった。

「各学校などが著作物ごとに個別で許諾を取ることは現実的ではない」といった議論から2018年に著作権法が改正され、指定管理団体に補償金を支払えば、オンライン授業での著作物の使用が無許諾で可能とされた。本来は2021年5月に施行予定だったが、コロナ禍で遠隔授業のニーズが高まり、改正著作権法は今年4月に前倒しで施行され、2020年度は補償金を無償とする特例措置が発表された。

教育分野において大きな前進だが、まだまだ十分な制度とは言い難い。来年度以降は補償金が必要となることや、専修学校または各種学校の認可を受けていない塾や予備校は「学校その他の教育機関」に含まれない。出版社にとって著作権は大切な権利であることは言うまでもないが、良質な教材が遠隔授業で使いづらい状況はせっかく広がったオンライン授業という学習機会が再び廃れてしまう可能性がある。

ゴロゴネットではオンラインフリー学習参考書を使用できる対象を個人学習の生徒に限定せず、オンライン授業や、YouTube動画での使用も無料化した。また、電子版無料利用許諾ページで申請するだけで利用可能とした。

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沖田 寛己(おきた ひろき)

学習参考書出版「スタディカンパニー」代表取締役
株式会社「ゴロゴネット」編集長


岡山県立岡山朝日高校、早稲田大学理工学部、早稲田大学大学院理工学研究科資源及び材料工学専攻修了。株式会社神戸製鋼所勤務の後、旧友の予備校講師の板野博行に請われ、受験研究所アルス工房をともに設立。東進衛星予備校北総栄校校長などを経て、出版社を設立する。東進ブックス「ゴロで覚える古文単語ゴロ513」の製作に参加し、その後自社から「古文単語ゴロ565」として出版。古文、現代文、漢文と出版を重ねていき、高校学参の国語分野で大きな位置を占める出版社とする。2013年よりコンテンツをネット配信化するため、サイト「ゴロゴネット」を立ち上げる。
現在、ゴロゴシリーズをはじめとした高校学参の編集に携わるとともに、2020年出版社スタディカンパニー代表取締役に就任。