【川山 竜二】トリガーとしてのテクノロジー

テクノロジーと教育

筆者は、さまざまなところでくりかえし「知識社会」となると主張してきた。また、これまでの社会像と異なるのだからそれにあわせて教育も変わっていくことになることもしかりである。教育は社会の動向を踏まえて絶えず変化していくものである。そのなかで今注目を集めているのは、ICTを教育に導入することにある。これをより広い観点からとらえれば、「テクノロジーと教育」の関係になる。今回はテクノロジーと教育の関係を考えてみたい。

テクノロジーと教育というと、教育工学というか教育手法がバージョンアップする話に思われがちだが、筆者は残念ながら教育工学の専門ではない。ここでは広くテクノロジーが教育に及ぼすインパクトという視点からわたしたちが何を考えなければならないのかを考察することにしたい。

 

印刷技術という経験

現在のように、ICTのようなテクノロジーが教育へ影響を及ぼすことは、初めてのことだろうか。実はテクノロジーによる大きな教育の転換を我々はすでに経験している。その経験とは、印刷革命である。この印刷技術のおかげで、ヨーロッパ社会の学校は大きく変わった。これまで印刷技術が発明される以前は、大変労力のかかる写本や教師の口伝によって教育が展開されていた。教育そのものがコストのかかる一部のものにしか教授できないものだった。印刷技術によってもたらされたのは、同一の知識内容を多くの人に伝達することができるようになったこと。さらに、書物は移動することが自由にできる。したがって、遠隔地でも同じ知識を得ることができるようになったことであった。それによって、当時の教育や学校のあり方は大きく変わったのである。

この印刷技術によってもたらされたのは、教育の標準化と遠隔地への知の伝達である。何か今のICTの導入と同じような雰囲気がする。この教訓から何が引き出せるのだろうか。印刷技術よりはじまった紙のテクノロジーからICTによるデジタルへと技術が変化しても、テクノロジーそのものの変化というよりも、それが学校や教育のあり方や教育内容そのものに引き起こす変化のほうが重要だということだ。

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川山 竜二(かわやま  りゅうじ)

学校法人先端教育機構
社会情報大学院大学研究科長・教授

文部科学省
持続的な産学共同人材育成システム構築事業委員
実務家教員COE 事業責任者


専門学校から予備校、大学院まで様々な現場にて教鞭を執る実績を持つ。
現在は、「社会動向と知の関係性」から専門職大学、実務家教員養成の制度設計に関する研究と助言も多数行なっている。そのなかで、リカレント教育やラーニング・ソサエティ、知識3.0を提唱。現在の関心のキーワードは、実践の理論・高度専門職業人。

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