【川山 竜二】教育と経済 ―人的資本のことはじめ
生産性と教育
日本は課題先進国と言われています。そのなかでも少子高齢化の問題は至るところで耳にする社会問題であると言ってよいでしょう。少子高齢社会になると人口が減少し、経済の規模が小さくなる可能性があります。なぜなら、人口が減少することで労働生産力が下がるからです。この労働生産力を維持するには、移民を増やすなどいろいろな考え方があります。ここで一つの方策として取り上げたいのは、労働生産を支える労働生産人口の数が少なくなるのであれば、その労働生産の質を上げようという発想です。
最近の政策では、「生産性革命」などと言われています。この労働生産性を上げることによって、持続可能な社会を実現できるのではないかということです。筆者はこの労働生産の質を上げるには、教育や人材育成がきわめて重要であると考えています。そこで人的資本という考え方が注目を集めています。
教育と労働
教育と労働を結びつけることに対して、違和感を覚えることもあるかもしれません。教育の目的の一つに社会のなかで自立した人間になることがあるとすれば、働くこととは切っても切り離せないのではないでしょうか。働いて金銭を得ることが幸せなのかどうかという議論もあるかもしれません。「人間にとっての幸せ」とは何かということについて、筆者は回答を持ち合わせていません。そもそも人々の多様性が重んじられるなかで、「幸せ」という価値観も人それぞれでしょう。経済成長あるいは持続可能な社会を実現させることだけが「幸せ」ではないかもしれません。
さて、ここで経済水準と人間の満足度に関する興味深いデータを紹介しましょう。2006年にギャラップ社が132か国を対象に人生の満足度の調査を行いました。その満足度とそれぞれの国の一人当たりのGDPを調べてみると、強い相関がみられることがわかりました。何かをしたいと思ったときに少なくとも費用がかかる場面は少なくありません。幸福を目指すために経済的な収入を増やすというのは、一概に誤っていないように思えます。