【大矢 純】対話的な学びと「余白」

学びの立体的な拡大

学びには水平拡大と垂直拡大があります。
学びの水平拡大とは、授業で習ったことをそれ以外の範囲や場に「広げて」いくことを指します。
教室で対話可能な教師や友人だけでなく、家族や親戚、近所の人や外国の人、愛好家や専門家、さらには時間を超えて昔の人など、いろいろの人たちとの対話により自分の考えを広げることです。

他の人に分かってもらうように考え表現することで、メタ認知(自身の思考プロセスを認知し「理解していることを理解する」)が高まります。
またその過程で自分の知らないことが分かったり、理解の浅い部分がわかったりすることで自らの不足を補うこともできます。
同じ趣向の人とコミュニケーションをとりたい、誰かに認められたいといったことも原動力になります。

また、人は興味のあることや好きなことや得意なことはもっと知りたい、突き詰めたいと思います。
学びの垂直拡大とは、授業で習ったことをさらに「深めて」いくことを指します。
これも少し前までは、本屋さんで本を手に取ったり買ったり図書館で調べるのが主流でしたが、インターネットで簡単に様々な情報を手に入れることができるようになりました。

また、SNSなどの発達によって専門的な知識だけでなく、専門家をフォローすることでその専門家の人となりに触れることも可能になりました。
素人が瞬時に専門家の立場に立つことも珍しくなくなりました。
そもそも学年という境界は、ミニマムを可視化するためのものでしかなかったわけです。
興味とやる気があれば学年に関係なく、何でも立体的な拡大ができます。

こどもの虫博士や天体博士、鉄道博士などが良い例でしょう。小学校低学年でも大人顔負けの知識や技術を習得することが可能なのです。

 

いかに余白を残すか

余白が残っていると気になります。
食事を腹八分目でやめるのには意志が必要です。コース料理の一品一品は敢えて少しずつしか出しません。
実は学びも同じなのです。

今までは、一から十まで丁寧にわかりやすく説明をする授業が重宝されてきました。
その期間が長かった教師ほど、すべてをきちんと教えないと自分の責任が果たせていない気がしてしまいます。
気持ちは良くわかります。ですが、世の中は急速に変化しています。

実は、もともと一から十まで丁寧にわかりやすく説明をする授業と、学力を伸ばす授業は似て非なる物でした。
それが前述のような世の中の変化により、自分で調べたり学んだりできる環境が整備されてきました。
オンデマンドの授業は溢れるほど用意され、個別最適化された問題演習も可能になりました。
反転学習も容易になり、得意な子から苦手な子まで自分に合った宿題が出せる時代になりました。

AIに置き換わる仕事というものも発表されていますが、わかりやすく教えるだけなら人間の教師でなくとも良いのです。
むしろそれぞれの子どものその時の状況に合わせることを考えれば、すでにAIの方がよほど優れています。

子どもをその気にさせる。そしていかに余白を残すか。
これが教師の大切な仕事になっていくのです。

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大矢 純(おおや  じゅん)

授業学研究所 所長

株式会社授業学研究所代表取締役。1966年岐阜県生まれ、東京都育ち。数学の授業や教員育成などの経験をもとに、生徒のやる気を引き出すノウハウを体系化した授業学を提唱。
2009年に授業学研究所を設立し、未来の日本を担う子どもたちのために、授 業学の確立と普及を行っている。
全国の教育委員会、日本私学教育研究所、東京・神奈川・兵庫などの私立中高協会や連合会を始め、各地の学校で研修や講演、コンサルティングを行うなど、活躍の幅を広げ5月よりオンライン講座も開講している。

▼『大矢 純』の過去記事を読む

【2021/7・8月】主体性を引き出す授業構成

【2021/6月】主体性を引き出す話のはじめかた

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