【大矢 純】生徒に届く伝えかた

新年度は昨年度までの経験をもとに授業をブラッシュアップする最大のチャンスです。
1学期は昨年度お伝えした内容から一段レベルアップして「伝え方」をテーマに進めていきます。

日本語は世界の言語でも珍しく、多彩なバリエーションを持つ言語です。
丁寧語や尊敬語、謙譲語などの言葉遣いで相手との相対的な立ち位置や距離感を内容の裏側に表現することができます。
この立ち位置や距離感で生徒が聞こうとするか、理解しようとするか、学ぼうとするかが決まります。
そしてそれによって、どの程度詳細に説明をすると最も効果的に生徒に届くのかが変わってきます。

授業学ではこれを「伝えるためのレディネス」と定義しています。
授業なのだから生徒が学ぼうとしているのは当たり前という前提に立っていると、多くの場合前提が間違っていることになります。
その状態でいくらわかりやすく説明しても、残念ながら生徒には届きません。

 

縦の近い関係づくり

生徒の力を伸ばすために理想的な関係は「縦の近い関係」です。
「縦」とは、教師と生徒の位置関係です。
教師が偉そうにするということではありませんが、教師と生徒は横並びではありません。
教師は何かにおいて生徒よりも秀でているからこそ、生徒は教師から学ぼうとするのです。
また、力を伸ばすためには負荷も必要です。
負荷がかかった状態で頑張ろうとする時も、何かを達成して褒められる時にも、「縦」の関係は効果的に働きます。

「近い」というのは教師と生徒との距離感です。
一般的には、縦の関係だと遠くなるので近づくために横並びの関係になってしまうケースが多いのですが、縦の近い関係は十分に構築可能です。
著名な人であれば距離感が遠くても学ぼうとしますが、そうでない場合は他人事で終わって当事者意識に欠けます。

「縦の近い関係」づくりができると、聞こうとするか・理解しようとするか・学ぼうとするかのレベルが上がります。

 

勇気をもって簡潔に伝える

文字だけで物事を正確に伝えようと思えば、学術書のように難しい言葉かつ長い文章で説明することになります。
専門分野を熱心に学んだ教師の多くはこの影響を強く受けるため、逆に生徒からはわかりにくいことがあります。

簡潔に伝えるためには、逆に画数の少ない文字を使い少ない文字数で伝えればよいのです。
ただ、そうなると「きちんと伝わらないのではないか」という懸念が生まれます。
でも安心してください。
授業の場合は同じ空間に居合わせているので、そこで誤解や不足があっても、その時の雰囲気で察することができます。
最初から分かりやすく伝えるというよりは、まず簡潔に伝えてみてそれで不足があれば補う、このような意識を持って臨むとよいです。

また、不足の補い方はここ数年で随分変わってきています。
10年ほど前までの長い間、わからないことがあれば図書館に行ったり書店に行ったりして関連の本を調べ、難解な文章から理解しなければなりませんでした。
教師にこの経験が染みついていると、無意識のうちにすべてをわかりやすく伝えてしまいます。
その後、インターネットの発達により本を読んで調べることからネット検索になりましたが、まだ生徒がいつでもパソコンやスマホで調べられる環境ではありませんでした。

それがここ数年、生徒も自分の端末を持てるようになりました。
また、検索対象も文字から動画に変わってきました。
動画で分かりやすく学べるようになったことで、教師が教えなくても生徒が自分で調べて簡単に理解できるようになったということです。
ということは、教師がどこまで思い切って簡潔にできるかどうか、その勇気がもてるかどうかにかかっているということです。
主体的に調べたり深めたりさせるため、興味をもたせた上で、あえて余白を残して授業を終えるということも1つの選択肢になったのです。

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大矢 純(おおや  じゅん)

授業学研究所 所長

株式会社授業学研究所代表取締役。1966年岐阜県生まれ、東京都育ち。数学の授業や教員育成などの経験をもとに、生徒のやる気を引き出すノウハウを体系化した授業学を提唱。
2009年に授業学研究所を設立し、未来の日本を担う子どもたちのために、授 業学の確立と普及を行っている。
全国の教育委員会、日本私学教育研究所、東京・神奈川・兵庫などの私立中高協会や連合会を始め、各地の学校で研修や講演、コンサルティングを行うなど、活躍の幅を広げ5月よりオンライン講座も開講している。

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